嘘の話

1〜2年前の今くらいの話。いや、11月から3月くらいにかけての話なんだけど、私にはその頃、大切だった人が一人いて。その時に2週間くらいその人と一緒に暮らしてた時の話なんだけど。その人とは年も性別も違くて、でもなんか初めて会った時に、この人はもう一人の私なんじゃないかなっていうか、そういうふうに思ってて。初めて会ってから1週間後に一緒に海に行って、砂浜で寝転んで一緒に空を見てた。今でもそれを忘れたくないと思ってる。去年の3月の冬の夜に、人のいない寂しいファミレスに行って、窓際の席でチェーン店の雑なご飯を食べた。その時の帰り道に、その人がなんかすごくかわいそうに見えて、駐車場で「一緒に住んでみませんか?」って聞いた。特に返答もなかったんだけど、気がついたら私たちは一緒にいたし、それが自然だった。一緒にご飯を食べてる時、私が元彼に卵焼きを作った時の話して「オムライス作った時に砂糖入れすぎて卵が甘くなっちゃったから、次は卵焼きには何も入れないでって言われて、だから何も入れないで作ったら味がしなくてすごいまずそうな顔されて嫌だった、だから別れた」って話をしたら、「俺だったら普通にケチャップかけて食べるけどね」って適当に笑ってくれたり、私が勝手に深刻に考えてることを小さく思わせてくれたのが嬉しかった。あと、冬なのにアイスコーヒーしか飲まなかったり、ベランダの窓ガラス越しに見えるその人のうなじとか、朝の5時くらいにブランコ漕ぎにいかない?って言ったら寝起きなのに公園探して付き合ってくれるような、その人とそういうふうに過ごすのが本当に好きだった。まるでこれから心中するみたいに、真っ暗な海の砂浜に立って、暗くてお互いの顔のパーツもわからないのに、顔の形を眺めてたりとかそんなことして過ごしてた。そして春になるまでの間で、その人とは会わなくなった。家が遠くて交通費がかかるとか、外出自粛だとか、いろいろと理由をつけて。お互いに遠慮しているうちに何もわからなくなった。その人はもう私の中からとっくに出て行ったのかもしれないけど、今でも自分はその人が一番大切に思ってしまっている。でも、そのうちいつかこんな日々もすっかり忘れてしまうのかなと思うと、寂しいような、最も輝いているような気持ちになる。